弱者に対する社会的支援の低さはなぜ起こるか?

子どもの貧困―日本の不公平を考える 阿部 彩著を読みました。

親の収入が子どもの学力、学歴、意欲に影響すること、日本では貧困に分類される子どもの割合がほかの先進諸国に比べて多いこと、母子家庭の所得の低さと子育ての難しさ、再配分の前より再配分の後の方が貧困に陥る子どもが多いこと、など様々なデータを用いて丁寧に説明した本です。

なぜこのような子どもの貧困が社会で無視されてきたのか、著者は衝撃的な調査結果を著者は挙げています。

 筆者は2003年と2008年に「合意的基準アプローチ」を持ちて、一般市民が日本の社会において何を必需品と考えるかの調査を行った。 08年の調査では特に子どもに特化して「現在の日本の社会においてすべての子どもに与えられるべきものにはどのようなものがあると思いますか」を20代から80代までの一般市民1800人に問うた。 調査は、インターネットを通じて行われており、一般人口に比べて若い層が多い、所得が若干高い、などのサンプルの偏りはあるものの、回答傾向に大きなひずみはないと判断される。
 調査では「12歳の子どもが普通の生活をするために○○は必要だと思いますか」と問いかけ、回答には3つの選択肢を用意し、「希望するすべての子どもに絶対に与えられるべきである」「与えたほうが望ましいが、家の事情(金銭的など)で与えられなくてもしかたがない」「与えられなくてもよい」「わからない」の一つを選ぶようにした。 調査項目は「朝ごはん」「少なくとも一足のお古でない靴」「(希望すれば)高校・専門学校までの教育」など、子どもに関する項目の26項目にわたる。
 驚いたことに、子どもの必需品に関する人々の支持は筆者が想定していたよりもはるかに低かった。 26項目のうち、一般市民の過半数が「希望するすべての子どもに絶対に与えられるべきである」と支持するのは「朝ごはん(91.9%)」「医者に行く(検診も含む)(86.8%)」「歯医者に行く(歯科検診も含む)(86.1%)」「遠足や修学旅行などの学校行事への参加(81.1%)」「学校での給食(75.3%)」「手作りの夕食(72.8%)」「(希望すれば)高校・専門学校までの教育(61.5%)」「絵本や子ども用の本(51.2%)」の8項目だけであった。 「おもちゃ」や「誕生日のお祝い」など、情操的な項目や、「お古でない洋服」など、子ども自身の生活の質を高めるものについては、ほとんどの人が「与えられたほうが望ましいが、家の事情(金銭的など)で与えられなくてもしかたがない」か「与えられなくてもよい」と考えているのである。
 文化の違いがあるものの、近似した項目について、ほかの先進諸国の調査結果と比べると、日本の一般市民の子どもの必需品への支持るつは大幅に低い。 たとえば、「おもちゃ(人形、ぬいぐるみなど)」は、イギリスの調査(1999年)では84%の一般市民が必要であると答えているが、日本では、「周囲のほとんどの子が持つ」というフレーズがついていながらも、「スポーツ用のサッカーボール、グローブなど)やおもちゃ(人形、ブロック、パズルなど)」が必要であると答えたのは、12.4%しかいない。 同じく「自転車(お古も含む)」は、イギリスでは55%、日本では20.9%であった(小学生以上)。 「新しく、足に合った靴」は、イギリスでは94%のほとんどの市民が必要であるとしているが、日本では「少なくとも1足のお古でない靴」は40.2%である
(以下略)

著者はイギリスだけではなく同様の調査をしたオーストラリアとの比較でも、日本が低い傾向にあることを書いています。

医者に行くが「絶対にあたえられるべきこと」と答えた人が86.8%だったのですから、一割以上の人が経済的理由があれば子どもが医者に行けなくても仕方がないと考えてるのです。
給食では4人に一人が、遠足や修学旅行では2割の人が「与えられなくても仕方がない」「与えなくてもよい」と考えているのです。
97%の子どもが進学する高校でさえ、本人が希望しても「与えられべき」と考えている人は6割しかいません。


著者はこう書いています。

第1章でみてきたように、実際には子ども期の生活の充足と、学力、健康、生活の質、そして将来のさまざまな達成(学歴、就労、所得、結婚など)には密接な関係がある。 その関係について、日本人の多くは、鈍感なのではないだろうか。 これが「子どもの貧困」が長い間社会問題とされず、国の対応も迫られてこなかった理由ではないだろうか。


あとがきで著者はこの本で「子どもの貧困」に絞った理由について、子どもの貧困に絞れば「自己責任論」が出てこないのではないかと考えたと書いています。 もちろん大人も貧困も深刻であることを強調しています。


給食費未納問題では、給食費を払っていない子どもに給食を与えるな、という意見がネット上で散見されました。 YAHOOのの意識調査では
給食費不払いには「出さない」
が30%もいたようで、もっとも多い意見でした。
http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/quiz/quizresults.php?poll_id=48&wv=1&typeFlag=1

給食費未納割合は人数にして1%、額ではわずか0.5%。 これぐらいでは給食の内容そのものに影響が出るわけがありません。
たとえ親がパチンコや高級車にお金を使って給食費と払わなかったとしても、それが子どもの自己責任になるはずがないでしょうに。 育ち盛りの子どもに給食を食べさせるなというのは、どんな「正義」なんでしょうか。